ベルト式動物飼育の思い出(藤原元典先生)
2004/08/24
ベルト式動物飼育の思い出
世界でも珍しい、実験動物の大量飼育に絶大な貢献をしたベルト式動物飼育機の生い立ちについて些か書き残して置きたいと思う。
昭和36年は私にとって悲しい事の多い年であった。12月17日には、かねてビタミン測定器の事で厄介になっていた夏目製作所の夏目住男社長が急死したということであった。そして、東京へ出かけた 私はその時、初めて彼の死がこのベルト式動物飼育機なるものに精根をかけたすえだった事を知ったのである。
話は2年前にさかのぼる。国立衛生試験所で動物飼育をしていた堀内茂友さんは、ある日、道路工事に使っている泥を運ぶベルトコンベアを見てベルト式動物飼育機を思い付き、いろいろ試作していたが、実際に実用化させるのは並大抵の事ではなかった。このような時、進取の気性の強かった夏目さんがこの役をかって出たのである。それからというものは昼夜を徹して夏目社長、東邦製作所、発明者の堀内さんと武藤さんが各所各部に機械工学的創意と工夫と改良を加え、やっと実用になるような第一号機が昭和36年12月16日午後6時過ぎに初めて出来上がったのであった。堀内氏によれば、その完成の瞬間、この4人はともども体を抱き合い、涙を流して歓喜したとの事である。
しかし、こうして喜んで夜遅く店に帰った夏目さんは「でき上がった!とても疲れた」と言って床に入ったが、その翌朝には、帰らぬ人となってしまったのである。聞けば、この飼育機は今までに800台が日本各地で動いているという。また、当時高校生であった長男克彦君も立派に成長しお父さんの後を継いで、ラットの血圧計を開発し、これが日本のみか世界の高血圧研究に多大の貢献をしたのである。
1985年「ラボラトリーアニマル」からの寄稿エッセイを抜粋